心と身体を健康にする呼吸の効力 ①

人は緊張すると深呼吸をして心を静めようとします。あるいは旅先の森林浴でリラックスした気分のときに、呼吸がゆっくりと深くなっていることに気づくことがあるでしょう。
このように呼吸は人の心と、より正確にいえば自律神経と深く関わっているのです。
私たちの心身を落ち着かせてくれる呼吸について考えてみましょう。

肺を取り囲む筋肉の運動が呼吸をつかさどる

私たちは生まれたばかりの赤ちゃんのときから、特に意識せずに自然と呼吸をしています。これは、生命維持のために必要な酸素を身体の中に取り込むために、脳が自動的に指令を出して呼吸をするようにできているからです。
ここで、呼吸とはどのような動きなのか、もう少し詳しく確認しておきましょう。
例えば、心臓は厚い筋肉でできており、収縮・拡張することによりポンプとなって血液を循環させています。ところが肺には筋肉はなく、従ってみずから動くことはできません。肺を取り囲む横隔膜や肋骨の間にある筋肉(肋間筋)、頸部、腹部の筋肉が動くことで胸腔内の圧力が変化し、空気が気道から肺に流れ込んだり、押し出されたりするのです。
呼吸はこのように、肺を取り囲む筋肉の複合的な動きにより起こりますが、なかでも主に肋間筋の運動により行われる呼吸を「胸式呼吸」、横隔膜の運動により行われる呼吸を「腹式呼吸」と呼びます。生まれたばかりの赤ちゃんは胸部が未発達のため主に腹式呼吸を行います。成長するにつれ、徐々に胸式呼吸ができるようになり、大人になると、特に現代人は多くの人が胸式呼吸を行っているといわれています。

呼吸を速く浅くする現代のストレス社会

では、なぜ大人になると胸式呼吸の人が多くなるのでしょうか。
まず、女性は大人になると妊娠準備のためにおなかを動かさない胸式呼吸になるといわれています。男性はその必要がないので、腹式呼吸と胸式呼吸を併用するとされていたのですが、どうも現代社会のストレスが影響して胸式呼吸に偏ってしまうようです。呼吸とストレスの関係とは、どういうものなのでしょうか。
人は緊張したり不安があったりすると呼吸が速く浅くなります。一方、気分が落ち着いているときには自然と呼吸がゆっくりと深くなります。これには自律神経が関係しています。ゆっくりとした深呼吸は副交感神経が優位になったリラックスした状態で、速く浅い呼吸は交感神経が優位になった心身共に緊張した状態なのです。これを逆に考えれば、呼吸によって自律神経に働きかけることができるということです。意識的に腹式呼吸を行うことで、心身ともにさまざまな良い効果が期待できるのです。