KHADIに恋して… 時には心の声に従う大切さ

 

KHADI(カディ)をご存知でしようか。インドに伝わる手紡ぎ、手織りの木綿布です。

 

マザー・テレサとKHADI

マザー・テレサがいつも着ていた青いラインの入った白いサリー、あの布がKHADIです。軽くて丈夫、サラッとした風合いで、吸湿性、速乾性にも優れています。

機械を使わず手で紡ぎ、手作業で織られた布は、糸撚りが柔らかく均一でないからこそ風をよく通して凉しく、インドの気候にはぴったりの心和む優しい布地です。

1979年12月10日ノルウェーのオスロ大学の大講堂で開催されたノーベル平和賞の授賞式に参加した当時69歳のマザー・テレサは、いつも通り白地に青い縁取りのサリーにカーディガンを羽織った姿でノーベル平和賞のメダルを受け取りました。それ以前、ヨハネス二十三世平和賞の授賞式の時も、ネール国際平和賞の受賞式でも、ケネディー賞の時もシュバイツァー賞の受賞式の時も…。
そして、1997年3月13日、87歳で息を引き取るまで、マザー・テレサはいつもKHADIコットンの白いサリーを纏っていました。

「白いサリーは、貧しい人のなかで、私も貧しい人のひとりだというしるし。私の身なりも生活も、病に倒れた人や骨ばかりの子供と一つになるための糧。」

 

ガンディーとKHADI

インドが植民地として大英帝国に支配されていた当時、インド独立の父、マハトマ・ガンディーは貧困と奴隷状態の原因は、イギリスの近代機械文明を歓迎して受け入れたインド人自身にあると考えました。そしてガンディーは、それまで着ていた弁護士の服を脱ぎ棄てて、自ら紡いだKHADIを身に纏ってインド全土を歩いて回り、西洋支配への抵抗運動として、工場で作られる機械織りではなく、自分たちの手で紡ぎ、手織りした衣服を着ることを人々に説いて歩きました。綿花の栽培方法を教え、糸を紡ぎ、手織りで布を作る方法を指導することによってインド人の自立を促すためにKHADIを普及させたといわれています。

「固く握りしめた拳とは、手を繋げない。」
「罪を憎みなさい、罪人を愛しなさい。」
「暴力とは、動物の法則である。非暴力とは、人間の法則である。」
「思うこと、語ること、行なうこと、これら3つが調和しているとき…そのときはじめて、人は幸福になれる。」
「命の経済に目覚めなさい!」
「インド人よ!インドの風土にあった手紡ぎ、手織りの綿を着よう。」

ガンディーが非暴力による抵抗手段として行ったハンガーストライキの際、静かに回していた「チャルカ」というKHADIの糸を紡ぐ糸車は「ガンディー・チャルカ」と呼ばれ、彼の教えと共にインド独立の象徴となっています。機械による大量生産で織られた布の不買運動もまた非暴力による抵抗運動だったのです。ガンディーがインド全土を歩いて回り人々に広めたKHADIは『The Fabric of Freedom』として、今もインドの人々に愛され続けています。

 

KHADIとの出会い

KHADIにはじめて出合った時、私は、まるで一目惚れのように惹かれてしまいました。儚げに薄く透ける生地は、手紡ぎならではの独特のムラとあまい撚りが空気を孕み、何ともいえない優しい肌触りで、夏は凉しく冬は暖かいので服やストールはもちろん、赤ちゃんのおくるみや肌掛け、シーツなどのべッドリネンにも最適です。我が家ではキッチンでも洗面所でも、とにかく家じゅうで大活躍しています。限りなく素朴なのになぜか存在感があって、日常の身の回りの雑多なものを投げ入れたバスケットにサッと掛けるだけで、不思議と絵になってしまいます。実用性がそのまま見た目の美しさに繋がっているような布です。

KHADIには、青空と太陽と風がよく似合います。KHADIを洗う時には間違っても合成洗剤など使ってはいけません。少なくても私はそう思います。石けんで洗濯して木製の洗濯バサミで留めて干すくらいの気を使ってあげないとKHADIに対して失礼です。よく晴れた日に木漏れ日を浴びて風になびいている姿は、惚れ惚れするほど美しく、その姿と風合いは何度洗っても変わることがありません。

それどころか洗濯を重ねるほど風合いを増すように思います。アイロンなどは使わずに洗いざらしをきちんとたためば、限りない包容力で触れ合うすべてのものと仲良しになってくれる…そんな布地です。

実は、KHADIに纏わるエピソードを私が知ったのは、KHADIを愛用しはじめてから暫く後のことでした。世の中のほとんどのことに関して五感プラスαに頼って生きている私は、KHADIと出合った時も理屈抜きで直感的に惹かれてしまったので、その起源や歴史については何も知りませんでした。でも、今から思えばマハトマ・ガンディーやマザー・テレサの熱意とインドの人々の思いが込められている布だからこそ、あれほどまでに私の感性に響き、惹きつけられたのかもしれません。『The Fabric of Freedom』出合えたことに感謝です。

時には、頭で考えるのをやめて、心の声(直感)に従ってみてはいかがでしよう。
他の誰でもない、あなた自身の感性を信じて委ねてみると、思いがけない感動が待っているかもしれませんよ。