心身の健康と美容のために ~香りと脳~ -前編-


 

香りで脳のストレスを軽減

好きな香りを嗅ぐと心が安らいだり、元気が出たり、嫌な香りを嗅ぐと気分が悪くなる、そんな経験を誰しもお持ちではありませんか?
香りは目に見えたり直接触れられたりするものではないですが、私たちの感覚にダイレクトに働きかけて、感情やひいては健康にも少なからず影響を及ぼしているのは確かなようです。
 

・嗅覚は本能に関わる最も原始的な感覚

人は外部からのさまざまな情報を五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を通して得ています。高度に発達した文明社会で生きる人間が得る情報は、視覚が8割を占めていると言われています。
一方、最も原始的な感覚と言われる嗅覚は、食べ物の異臭を嗅ぎ分けて命を守ったり、フェロモンを感知して生殖活動を行うなど種族の保存に関する役割を担っています。人間よりも動物や昆虫のほうが発達しています。
嗅覚以外の視覚・聴覚・味覚・触覚の情報は大脳の中でも新しい大脳新皮質を経由するのに対し、匂いの情報だけは唯一、大脳新皮質を経由せずに大脳の古い部分である大脳辺縁系に直接届きます。
人間の脳は進化の過程で、原始的な部分である大脳辺縁系を覆うように大脳新皮質が発達していきました。大脳新皮質が人間らしい理性的な思考や言語を支配する「考える脳」と呼ばれるのに対し、大脳辺縁系は食欲や性欲など本能的な行動や喜怒哀楽の感情などを支配する「感じる脳」と言われています。嗅覚はこの「感じる脳」をダイレクトに刺激するのです。例えば、リラックス効果のある香りを嗅ぐと、その瞬間すーっと心が安らぐのはこのためなのです。
 

・香りを活用して自律神経やホルモンバランスを整える

匂いが脳で認知されるメカニズムを簡単にご紹介しましょう。
まず、空気中を漂う匂いの分子が呼気とともに、あるいは口に入った食べ物の匂いが口腔から逆流するように鼻腔に入ります。
鼻腔の天井部には嗅上皮という匂いを感じる器官があります。表面に嗅粘膜があり、匂いの分子はこれに溶け込みます。嗅粘膜には嗅細胞の先端から嗅毛が何本も伸びていて、これがセンサーとなって匂いをキャッチ。嗅細胞が匂いの分子を電気信号に変換して、嗅神経から嗅球を経て大脳辺縁系へと伝達し、「心地よい」か「不快」かを感じたり、あるいは過去の記憶と結びついたりします。
大脳辺縁系に到達した匂いの電気信号は2つの経路に分かれ、1つは視床下部に伝わり、さらに下垂体へ。もう1つは大脳新皮質へと伝わります。大脳新皮質では、この匂いが「ミント」であるとか「ガス臭」であるといった認識がされます。
一方、視床下部や下垂体へと伝わった匂いの電気信号は、人間の身体や心の状態に影響を与えます。
視床下部は自律神経をコントロールする器官です。脳が過度のストレス状態になると視床下部の働きに影響し、自律神経のバランスが崩れます。下垂体は視床下部と連携してホルモンを分泌する器官なので、過度なストレスはホルモンバランスも崩すことになり、心身の状態が悪くなるのです。
自律神経やホルモンのバランスを整えるためには、さまざまなストレスを軽減させることが重要です。そこで役に立つのがリフレッシュ&リラックス効果のある香りです。この香りの電気信号が視床下部や下垂体へ届くと、自律神経やホルモンバランスが整い、心身の健康に、もちろん美容にもよいというわけです。